山白 朝子(乙一)さんの「私のサイクロプス」を読みました。
あらすじ。
出ては迷う旅本作家・和泉蝋庵の道中。荷物もちの耳彦とおつきの少女・輪、三人が辿りつく先で出会うのは悲劇かそれとも……。怪談専門誌「幽」の人気連載に書き下ろし「星と熊の悲劇」を加えた九篇の連作短編集。
これは、「エムブリヲ奇譚」の続編です。
「和泉蝋庵シリーズ」とも呼ばれているそうです。
前作同様、短編集です。
私としては前作の「エムブリヲ奇譚」よりも楽しめました。
登場人物や時代、その他の設定が全て同じですので、読んでいて疲れないというところも私の中でのプラスポイントです。笑
このシリーズ、読めば読むほど好きになりそうです。
博打と酒のことしか頭にない本物のダメ男「耳彦(みみひこ)」と、人生を何度も繰り返す超博識の「輪(りん)」、いろんな意味でもはや人間とは言えない「和泉蝋庵(いずみろうあん)」の三人のキャラクターが絶妙でして、彼らを知れば知るほどハマっていきます。
前作は、正直なことろ苦手な話が一話収録されており、そのため私の中の評価が下がってしまいましたが、今作は私が苦手とする話がなかったこともあり、あっという間に読んでしまいました。
ホラーでありながらも考えさせられる話も多く、一話読み終わるごとにページを閉じて今読んだ話について考えました。
印象に残った話はいくつかあったのですが、一番怖かったのは「呵々の夜」でした。
ネタバレになってしまうので詳しくは言いませんが、続きが知りたいと思える話でした。(ただし、この話はあそこで終わるのが正解なのだと思います)
また、怖さとは別の意味でですが、ラストの話「星と熊の悲劇」もとても印象的でした。
私は乙一さん作品を何作か読んでいたので、ラストは想像できました。
これ以上言うとカンのいい方なら読む前に気付いてしまいそうなので言いませんが、乙一さんらしい話で私は好きです。
この話はタイトルからもわかるように、大きな熊に襲われる話です。
で、私が真っ先に思ったことは。
「ん?北海道の話?本州にはヒグマはいないし、本州にいるツキノワグマなら大人の男が数名でかかれば倒せるぞ?」
というものでした。
私の記憶にある限り、小説の時代(おそらく江戸時代あたり)にも本州にヒグマはいないはずです。
物語内で「寒い」という表現がないことから、「ここは北海道じゃなさそうだな」と。
一応ネットで調べてみましたが、やはり江戸時代にはもう本州のヒグマはいなかったとのことです。
でも、私はここで気が付きました。
「和泉蝋庵シリーズ」はファンタジーなのだと。
ファンタジーに現実的な話を持ち込むのは、愚の骨頂ではなかろうかと気が付きました。
だってそれはドラクエシリーズのゲームをやっているときに、「手から炎は出ないよ」なんて言い出したら、ゲームを楽しめませんからね。笑
ということで、「和泉蝋庵シリーズ」も日本の江戸時代に似ている舞台の話というだけであって、江戸時代の話じゃないんです。
気づくのが遅いですが、それに気が付いた途端にグイグイ物語に引き込まれました。
ラストの話だけでも読む価値があると思います。
もちろん、収録されている全話楽しめます。
全体的に悲しい話が多めではありますが、「エムブリヲ奇譚」が好きな人は、間違いなく読むべきだと思います。