小説「エムブリヲ奇譚/山白 朝子(乙一)」を読んでみた

ネタバレなしの小説レビュー

山白朝子(別名:乙一)さんの「エムブリヲ奇譚」を読みました。

あらすじ。

「わすれたほうがいいことも、この世には、あるのだ」無名の温泉地を求める旅本作家の和泉蝋庵。荷物持ちとして旅に同行する耳彦は、蝋庵の悪癖ともいえる迷い癖のせいで常に災厄に見舞われている。幾度も輪廻を巡る少女や、湯煙のむこうに佇む死に別れた幼馴染み。そして“エムブリヲ”と呼ばれる哀しき胎児。出会いと別れを繰り返し、辿りついた先にあるものは、極楽かこの世の地獄か。哀しくも切ない道中記、ここに開幕。

乙一さんの作品を読むのは、私はこれで2作目です。

感想はというと、けっこう楽しめました。

タイトルに「奇譚(きたん)」とあるように、珍しい話や不思議な話がメインの短編集となっています。

広い意味ではホラーかもしれませんが、怖さは控えめです。

怖いのが好きだけど怖いのが苦手という、恐がりな人にもいいかもしれません。

この作品は2つの意味で読みやすいと思えました。

1つ。

短編集ではあるものの、すべての話に繋がりがあること。

すべて、微妙につながった話なので、一回一回気持ちをリセットせずに済むんですね。

これは私にとって大きなメリットです。

2つ。

時代モノなのに抵抗なく読めること。

この小説は、「○○時代の話」と明記されてはいないものの、おそらく江戸時代くらいの話だと思われます。

私は、時代モノの小説があまり好きではありません。

テレビドラマの時代劇は好きなんですが、小説だとあまり好きになれないんです。

それはなぜかというと、頭の中で映像化しにくいからです。

当然ですが私は過去の時代を実際に生きたこともなければ、その時代の資料を本格的に調べたこともないので、細部のイメージがしにくいんですね。

でもこの「エムブリヲ奇譚」は、時代モノが苦手な私も全く抵抗なく読めました。

おそらく良い意味で抽象的に書いてくれたのだと思います。

ざっくりイメージでも、充分に楽しめるんです。

ですので、もしも私と同じく時代モノが苦手な人がいても、これは読みやすいのでお勧めできます。

次に。

肝心の内容についてですが、最初の3話「エムブリオ奇譚」「ラピスラズリ幻想」「湯けむり事変」は、ストーリーがとても練られていてグイグイ引き込まれます。

「エムブリオ奇譚」はどこか少し悲しくなるような、はたまた温かい気持ちになるような不思議な話ですし、「ラピスラズリ幻想」は非常に考えさせられました。

人生って何だろう、生きるって何だろう、死ぬってどんな感じなのだろうか、と自然と哲学的なことを考えてしまうような話です。

「湯けむり事変」は、怪談ではあるもののけっして怖い話ではありません。

むしろ、こんな体験なら大歓迎だと思えるような怪談でした。

ですが、4話目の「〆」が私にはどうしても受け入れられませんでした。

ネタバレになるのであまり書けないのですが、ペットを殺すことは家族を殺すことと等しいと私には思えます。

ですので、ペットを殺してしまう話は嫌悪しか感じません。

吐き気すら覚えます。

もしもこの本の中に、4話目の「〆」がなければ私の中で遥かに評価が高いモノになっていたと思えます。(私なんかに評価されたくないかもしれませんが。笑)

4話目を読み終わった時点で、続きを読むのをためらってしまったほどですから。

また。

先ほど、「あまり怖くはない」と書きましたが、「あるはずのない橋」と「地獄」はそれなりに怖いです。

「あるはずのない橋」は怪談系の日本昔話にありそうな話で、私はとても好きでした。(私は日本昔話が大好きなんです。時代モノなんですけどね。笑)

「地獄」は、スプラッター映画にありそうな話で、残酷な話に抵抗がなければ恐怖を楽しめると思います。

トータルで考えて、私は好きな話が多かったですね。

超おすすめ、というほどではありませんが、読んで損をするような小説ではありません。

乙一さんの小説なら、「暗いところで待ち合わせ」の方がおすすめできますが、エムブリヲ奇譚も単行本で700円以下ですから充分に買う価値があると思います。


エムブリヲ奇譚 (角川文庫) [ 山白朝子 ]